「桜の森の満開の下」(1947) 坂口安吾

    • 春と言えば[植物]桜。満開の桜は美しいが、もっと美しいのが澄んだ夜気の中で、はらはらと散りゆく桜ではないだろうか。桜の散りゆく季節はどうしても胸騒ぎ、狂おしくなるのはなぜだろう? 一本の古ぼけた桜が寂しそうにぽつねんと立っていたら、その桜の樹下にはきっと屍体でも埋まっているのではないか? その桜の薄く色づいた、淡色の紅色はきっと人の血を吸って染まったのではないか? そんな夢想をさせてしまう狂気が桜にはあると、この季節になると思うのである。ぼくと同じようにデカダンな気分のあなた、今宵はこんなものを読んでみては如何であろう。