『勝利への脱出 / VICTORY(ESCAPE TO VICTORY)』(1980)

勝利への脱出 [DVD]

    • 戦時中の脱走劇でありながら、一見異色とも思えるサッカーとの取り合わせを描いた傑作。監督は『黄金 / THE TREASURE OF THE SIERRA MADRE』(1948)、『アフリカの女王 / THE AFRICAN QUEEN』(1951)、『天地創造 / THE BIBLE...IN THE BEGINNING』(1966)などで知られ、俳優でもあった故ジョン・ヒューストン
    • 1940年代初頭、第二次世界大戦ナチス支配下にある捕虜収容所。かつて名選手とならしていた将校ジョン・コルビー(マイケル・ケイン)ら連合国軍兵士たちはサッカーを気晴らしに興じていた。かつて自分もナショナルチームの選手であったカール・フォン・シュタイネル少佐(マックス・フォン・シドー)はその様子を見て、コルビーに親善試合を持ちかける。コルビーは兵士たちから、ルイス・フェルナンデス(ペレ)ら有力メンバーを選抜し、チーム結成を始めた。一方、新たなる脱走計画を練っていた上官ウォルドロン大佐(ダニエル・マッセイ)やローズ少佐(ティム・ピゴット=スミス)たちは、この親善試合を脱走計画に利用しようと思いつく。その無謀さにコルビーは反対し、ひたすらチーム作りに励む。アメリカ軍兵士ロバート・ハッチ(シルベスター・スタローン)はチームに入ろうと必死に自分を売り込むが、参加を認められずにいた。やがて、試合はドイツ軍上層部の思惑で、格好の宣伝材料として連合軍捕虜チームとドイツ・ナショナルチームの大々的対決へと発展してしまうのだが……
    • 連合軍チームには往年の代表選手であった本物がメンバーとして名を連ねている。ブラジルのペレを筆頭に、イングランドボビー・ムーア、マイク・サマビー、アルゼンチンのオズバルド・アルディレス、ベルギーのポール・ヴァン・イムスト、ポーランドのカジミエズ・ディナら。こんなプロの中に混じって、走り回ったマイケル・ケインは大変だったように思う。この運動量の反動で、『殺しのドレス』(1980)という動きの少ない映画に出たのかもしれない(;・∀・)。対するスタローンはというと、『ロッキー / ROCKY』(1976)でも知られるように肉体派だけにそのエネルギー溢れる臨場感は見事なものだ。泥臭い演技も逆に、いい感じで作用している。連合軍チームとドイツ・ナショナルチームの試合が行われたと設定されているスタジアムはパリ郊外にあるコロンブ競技場で、歴史的には1924年のパリ・オリンピックや1938年のフランス・ワールドカップでメイン会場となっているのが、1939年8月からドイツ人亡命者の強制収容施設として使われてもいたそうだ。近代化か進みすぎたパリでは撮影困難で、実際の撮影に使われたロケ地はハンガリーであったという。
    • サッカーと脱走という2つの旋律を主と副が入れ替わるかの如く、白熱する試合はまさに手に握る。一丸となるサッカー選手たち、そして観客、果ては反対していた上官や敵軍の名優マックス・フォン・シドー演ずるドイツ将校を巻き込んでの熱い気持ちが伝わってくる名作であろう。