『<サイコダイバー・シリーズ21>『新・魔獣狩り9 狂龍編』(2004) 夢枕獏著 NONノベルズ刊(祥伝社)

    • もうかれこれ20年近く読み繋いでいるシリーズである。執筆開始はそれより古く、27年前という訳であるけれども、獏さんのシリーズの中で<キマイラ・吼>シリーズに次いで長いシリーズものである。この<キマイラ>が少年ものの伝奇小説であるならば、<サイコダイバー>は大人向けとして出版されたものである。
    • 伝奇小説はSF的エッセンスを絡め、伝説などを題材に奇想を盛り込んでゆく小説といえよう。時代小説的色合いが強いものもある。古くは山田風太郎の<忍法帖>シリーズもその範疇にあるだろうし、半村良の<伝説>シリーズもそうである。SFとも時代小説とも形容しがたい、それらが渾然一体となって現代小説として醸成されたものを伝奇小説だ。
    • 空海をテーマの核に添えた本シリーズは終焉へと近づいている。長らく読者をしているぼくは<新>と冠され、このシリーズが続いているのを正直複雑な思いで読んでいた。日本SF大賞を受賞した名作『上弦の月を喰べる獅子』を書き終えたあとの獏さんに対し、不満も感じている。<黄金宮>や<大帝の剣>など完結していないシリーズが幾つかあるのだが、次々と新たなシリーズを始めてしまっていて、期待していたその行方が心配である。そういうことも含め色々ある訳であるが、よくここまで、長大なシリーズを書いてこられた獏さんに感服するのも確かだ。
    • 胸躍らせて少年時代に読んだ、あの濃密で、血と汗でつむいだようなねちっこい文章は無理かもしれない。が、この物語の有するエネルギーに期待している。獏さん頑張って生きて、面白い小説をぶっ書いてください。