エイリアン雑感とか

    • で、感想となるわけであるが……アルティメット版は劇場版に未公開映像シーンなど、サービスカットを盛り込んだいわゆる完全版といわれる再編集版が基本的に収録されている。1作目は完全版ではなく、DC版という表現。全般的に、リマスター処理された映像や音声はいい感じになっている。また、映像特典ディスクが全作ついていて、それらは単体発売されている各巻と同じようだ。1枚のボーナスディスクがついているかがBOXとの差だ(であるから、ディスク枚数9枚)。

エイリアン ディレクターズ・カット アルティメット・エディション [DVD]

    • 20世紀FOXへ持ち込まれたその原案脚本は『ゲッタウェイ / THE GETAWAY』(1972)で知られる脚本家・監督のウォルター・ヒルを初め、ゴードン・キャロルやデヴィッド・ガイラーらの製作陣の目に止まる。『スター・ウォーズ / STAR WARS』(1977)の成功で、会社はゴーサインを出す。特に、寄生したエイリアンが人間の胸部から飛び出すチェストバスターの場面は映像化の決め手になった。登場人物名やセリフの変更や追加という脚本の改稿(オバノンから見れば改竄)の末、脚本が完成する。オバノンも監督候補に挙がっていたが、独自の映像哲学を持つCM出身の監督、リドリー・スコットに白羽の矢が立つ。
    • 新人女優シガニー・ウィーバーの抜擢と7人の個性的なクルーの配役、スイス人画家H・R・ギーガーを起用した異形なる怪物の創造、細部に拘られた船内や宇宙船の外観、故ジェーリー・ゴールドスミスによる神秘的な音楽。光と影の交錯するスコット監督の映像美で、未知なるエイリアンによる密室劇の持つ閉塞的なサスペンス要素と、宇宙のSF近未来的ビジョンが融合したSFホラー映画へと昇華されたのだ。いわゆる宇宙版『悪魔のいけにえ』。CGなど使われず、今にして考えれば限られた低予算でも、これだけリアルで素晴らしいSFマインドに溢れた作品ができるのだと、昨今の映画制作者たちに思い出してもらいたいものだ。きっと生粋のSF畑の人間でないから、その後も『ブレードランナー / BLADE RUNNER』(1982)など映画史に残る名作をスコット監督は作れたかもしれない。

エイリアン2 完全版 アルティメット・エディション [DVD]

    • 2作目の『エイリアン2』はジェームズ・キャメロン監督による続編だ。1作目と打って変わって、こちらはSFアクション映画である。海兵隊が出てきて、無数のエイリアンとドンパチを繰り返す戦争映画。だが、キャメロンはよく分かってるのだろう。見えそうで見えないエイリアンにまたひとり、更にひとりと、喰われて消えてゆく1作目の醸し出す原始的恐怖を自分が得意ではなく、また同じことを描いても仕様がないことを。1作目の設定を活かしながら、自分流に娯楽作品にしたのだ。スコット監督が芸術面に優れる天才肌であるとすれば、キャメロン監督は秀才肌である。完全版は劇場版よりも20分ほど長い。公開時、上映上の関係でカットされた部分だ。アルティメット版ならば、劇場版も入れてくれればよかったのに(´・ω・`) それは3作目『エイリアン3』にもいえる。この3作目ほど紆余曲折で、制作が難航した<エイリアン・シリーズ>はない。

エイリアン3 完全版 アルティメット・エディション [DVD]

    • ダイ・ハード2 / DIE HARD 2』(1990)のレニー・ハーリンが当初監督をしていたが、制作サイドとの食い違いで結局降板。それがニュージーランド出身のヴィンセント・ウォード(原案として一部残る)などを経て、最後にお鉢が回ってきたのが新人のデヴィッド・フィンチャーであった。のちのちに『セブン / SEVEN』(1995) や『ゲーム / THE GAME』(1997) で、ダークな映像表現やそのサスペンス色が評価されてゆくもののこの3作目の劇場公開版をテレビで観たときには (((´・ω・`)カックン…したものだった。独特なヴィジュアル感覚は評価できるのだが、如何せんストーリーに練り込みがなく、一本調子である。完結的要素を求めた映画にしては弱すぎるのだ。
    • しかしである。制作当時の話を映像特典で眺めていると、監督交代や脚本執筆(あのサイバーパンク一世風靡した作家ウィリアム・ギブスンも脚本に関与していて、ここでその脚本のあらましが読める)などに、多くの人・時間・費用が割かれ、フィンチャーが監督しているときも完成脚本はできてなかったという。それを考慮してあの若さで、作品を形にしたフィンチャーは評価すべきであろう。今回初めて完全版を観て、多少なりとも評価が変わった。時間にして劇場公開版より30分長い。エイリアンの誕生シーンが差し替えられてたりとなかなか興味深い。けれど、この完全版はフィンチャーはノータッチのようだと知った。制作側との軋轢などが要因かもしれぬが、できうれば、フィンチャーの意図に近いものを観てみたかったように思う。

エイリアン4 完全版 アルティメット・エディション [DVD]

    • 4作目はフランス人のジャン=ピエール・ジュネが監督した。彼も独特な映像センスを有する監督だ。荒廃した核戦争後の世界を舞台にした、『デリカテッセン /DELICATESSEN』(1991)の奇妙な感じは好きだ。生物兵器利用を目的とする軍の科学研究船を舞台にされた4作目は、前作同様に脚本的面白みはあまり感じられない。ジョス・ウェドンの脚本は科学の表層をなぞっただけだ。今作はエイリアンの研究というガジェットが物語の核なのに、そこら辺の設定が薄っぺらで信憑性に乏しいのだ。遺伝子技術の一言で済ませている感じが否めない。もっとねちっこく科学的な視線で脚本は描くべきであろう。ジュネは寓話的な話が得意であろうから、監督と脚本のマッチングに齟齬があるのかも。
    • が、ジュネ曰く、映画会社の求めたものを自分なりに作ったもので、脚本段階から携わったわけではないようだ。ドミニク・ピノンやブラッド・ドゥーリフロン・パールマンら個性的な俳優陣と、随所に見られる奇特な映像表現やユーモアが楽しめる作品かもしれない。

エイリアンVS.プレデター 2枚組 特別編 〈初回限定生産〉 [DVD]

    • シリーズというか番外編なのか。通称AVP、エイリアンとプレデターが戦っちゃうとんでもない設定の話である。監督はポール・W・S・アンダーソンという若手監督で、『イベント・ホライゾン / EVENT HORIZON』(1997)や『バイオハザード / RESIDENT EVIL』(2001)を撮っている。時代は1作目よりおよそ80年ほど遡り(150年という設定らしいが何か違うらしい)、地球の南極大陸が舞台となる。そこにあった古代遺跡でプレデターとエイリアンの死闘に人間の調査団が巻き込まれるわけだが、1〜3作目まで関わる巨大企業の前身が出てきたり、そこら辺の描写は時間を掛けていて、荒唐無稽な割りには結構嫌いじゃない。なるほどと頷く部分もある。SFは大きな嘘は吐いてもいいのだ。しかーし、である。それらが徐々に分かってきて、いざエイリアン対プレデターとなる……戦わせてもいいが、人間をあのように関わらせてしまうのは頂けない。もう(;・∀・)って感じで見るしかない。前半は及第点以上だが、後半は……である。
    • そんな感じで、エイリアン4部作+αを観てきたのだが、5作目が準備されてるという話だ。監督は噂ではリドリー・スコットが有力で、今までシリーズで描かれていないエイリアンの母星が出てくるかもしれぬという。エイリアンの母星はレニー・ハーリンが監督する予定であったバージョンの3作目でも構想があったらしいが、予算と特撮技術の折り合いがつかず、それが原因で違う方向へシフトしたようでもある。現在のCG技術ならば可能なレベルであり、リアルな母星がリドリー・スコット特有の映像美で観られれば言うことない。作るならば、是非とも素晴らしい脚本と映像をお願いしたいのである。