『ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方 / THE LIFE AND DEATH OF PETER SELLERS』(2004)

ピーター・セラーズの愛し方 ~ライフ・イズ・コメディ ! [DVD]

    • 引き続き映画の感想である。ピーター・セラーズといえば、<ピンク・パンサー>シリーズのクルーゾ警部でお馴染みである。1981年に心臓発作でこの世を去って今はもういない怪優であるが、その半生を描いたのがこの伝記映画である。
    • いささか脱線したが、このジェフリー・ラッシュ演ずるセラーズがとてつもなく似ている。もう本人が撮っている自伝映画といってもいいほどにそっくりである。ラッシュ曰く、「セラーズがもし生きていたらこんな自伝映画を撮っていただろう」。ってなわけで、セラーズになりきっているのだ。セラーズの演じた役柄<ピンク・パンサー>のクルーゾ警部、『博士の異常な愛情』(1964)でのストレンジラブ博士を初め、米大統領にマンドレーク大佐を演じるひとり三役など、みんな奇特な人間たちだ。それはそれ、セラーズ自身が変な人であったからなのだが、この映画を観ると、何故にこんな人物たちになりきるのかというのが分かってくる。いわゆる仮面=ペルソナを被るわけである。人生そのものも、ある種の「自分」という仮面を被って「自分」を演じているようなのだ。
    • 激昂しやすく、子供っぽく、わがまま。共演したソフィア・ローレンに恋慕恋をし、妻と別れてしまうし、再婚した女優ブリット・エクランドとの生活もそうだ。息子や家族に注がれる過剰なまでの愛情は「自分」の器から溢れ出し、愛憎が綯い交ぜになって、一番落ち着けるのが奇特な人物を演じ、人生を映画のように続けることであったのかもしれない。喜劇と悲劇に満ちた人生だ。<ピンク・パンサー>の監督・制作者であるブレイク・エドワーズや、スタンリー・キューブリック監督との関係も同様であり、実体の不在をいつも感じていたように思える。
    • そんなセラーズは晩年、『チャンス』(1979)で達観したような演技を魅せる。主人公チャンスを演じるセラーズはどこか吹っ切れたようで、空っぽな「自分」の中にようやく何かを見つけたような彼がいる。人生五十半ば、本当の「自分」を見つけかけたセラーズがいた。映画好きな方には楽しめる佳作であるとお勧めできる。