『パーマーの危機脱出 / FUNERAL IN BERLIN』(1966)
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- 娯楽作品である<007>シリーズのように、ド派手なアクションシーンはなく、基本的に、静かなる暗躍を描いたものである。これはレン・デイトンという作家の持ち味に起因したものであろう。ジェームズ・ボンドの如きエリートを主役に配するのではなく、一見どこか冴えないノン・キャリア組の諜報員が主役である。そのハリー・パーマーを演ずるのは英国の誇る名優マイケル・ケインで、原作小説では一人称の「私」だが、映画用に命名されたのが、どこにでもいそうな名前の男だ。そんな彼がはったりと口八丁手八丁を駆使し、各国情報部の思惑が絡み合う諜報戦を、飄々とその頭脳で潜り抜けてゆくパーマーのどこか知的で、ひと味違った美学が巧く表現されている。
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- ポール・ハブシュミットはドイツのスパイ映画などによく出ていた俳優らしく、アルベルト・デ・マルティーノ監督による『アッパー・セブン/神出鬼没 / UPPERSEVEN, L'UOMO DA UCCIDERE 』(1966) という伊・西独合作のスパイ活劇が有名だそうだ。謎めいた美女を演じてるのはエヴァ・レンツィで、ダリオ・アルジェント監督のデビュー作『歓びの毒牙 / L' UCCELLO DALLE PLUME DI CRISTALLO』(1969)というイタリアのサスペンス映画にも出ている。クロイツマン役で出演しているギュンター・マイスナーは、ナチス絡みの映画でよく顔を出す名脇役であるが、ロナルド・ニーム監督の『オデッサ・ファイル / THE ODESSA FILE』(1974) やスチュアート・ローゼンバーグ監督の『さすらいの航海 / VOYAGE OF THE DAMNED』(1976)、フランクリン・J・シャフナー監督『ブラジルから来た少年』(1978)などに出ていて、本作でも印象的な役である。ロシア人将校、ストック大佐役の故オスカー・ホモルカも名演技を魅せている。
- 第3作『007/ゴールドフィンガー / GOLDFINGER』(1964)
- 第7作『007/ダイヤモンドは永遠に / DIAMONDS ARE FOREVER』(1971)
- 第8作『007/死ぬのは奴らだ / LIVE AND LET DIE』(1973)
- 第9作『007/黄金銃を持つ男 / THE MAN WITH THE GOLDEN GUN』(1974)
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- さて、この<ハリー・パーマー>シリーズは他にもある。
- 『国際諜報局 / THE IPCRESS FILE』(1964)
- 『パーマーの危機脱出 / FUNERAL IN BERLIN』(1966)
- 『10億ドルの頭脳 / BILLION DOLLAR BRAIN』(1967)
- 『国際諜報員ハリー・パーマー/Wスパイ / BULLET TO BEIJING』(1994)
- 『国際諜報員ハリー・パーマー/三重取引 / MIDNIGHT IN ST. PETERSBURG』(1995)
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- 1〜3は映画公開作、4と5は数十年ぶりに復活しテレビ映画化された作品。すべてマイケル・ケイン主演であり、是非とも観てみたいのでDVD化を切望する。特に1は本作よりも評価が高い。本作でもそうだったが、羽佐間道夫さんの吹き替え版もいい味を出しているので、それはもちろん収録方向で。併せてハヤカワ文庫NVからも出ていた原作小説もあるが、現在絶版のようなので、復刊希望である。<007>にしろ、この<ハリー・パーマー>にしろ、スパイ映画は鬼ごっこやかくれんぼに興じた日々、それに通じる闘いは男のロマンであるのかもしれない。旧MGM作品である<007>もDVD化はされていても、日本語吹き替え収録という楽しみが取り除かれ、高価でもあり、いまいち買う気が起きない。なるべくリーズナブルに、吹き替え収録がされれば買おうという人々は多いはず。どちらもDVD化など宜しく。
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- 追記。マイク・マイヤーズ主演の爆笑スパイ・コメディ<オースティン・パワーズ>シリーズはハリー・パーマーをパロディ化しているとも言われていて、近作である『オースティン・パワーズ ゴールドメンバー / AUSTIN POWERS IN GOLDMEMBER』(2002)ではマイケル・ケイン自身がオースティンのパパ役で出演している。