『ゴーレム100』(1980) アルフレッド・ベスター/渡辺佐智江訳 国書刊行会刊
-
- 故アルフレッド・ベスターといえば、ぼくの好きな作家のひとりで、故ロジャー・ゼラズニイ、ディレイニーに並び好きな作家である。いわゆる、<ワイドスクリーン・バロック>の先駆として、SF作家でもあり評論でも知られるブライアン・オールディスに形容された作家だ。あとがきの山形浩成氏の解説に詳しいが、第一回ヒューゴー賞受賞作『分解された男』(1953 創元SF文庫刊)、『虎よ、虎よ!』(1956 ハヤカワ文庫SF刊)という二大長編でそのSF的地位のほぼすべてを築いてしまったといっても過言ではない。しかし(というか、前二作のあまりの素晴らしさゆえか)、専業のSF作家として活動していたのは短く、寡作である。1913年生まれであり、1950年代という遅咲きで、再始動したのが1970年代で、1987年に心臓発作でこの世を去るまでの活動期間は長くはないとはいえ、長編はたった五作品。『コンピュータ・コネクション』(1974 サンリオSF文庫刊・廃刊)、本書、"THE DECEIVERS"(1982 未訳)である。ゼラズニイが中絶作を引き継いだ"PSYCHOSHOP"(1998)を含めても、少ない。
-
- 追記。
-
- 『ゴーレム100』をちょっと読み始めた。すげえ(・∀・)イイ!! 久々に萌えるSFだ。というか、ベスターは『虎よ、虎よ!』も『分解された男』も、SFという枠組みの中で、ミステリ的な謎を物語の一本の柱として使っている。またタイポグラフィックがここではさらなる進化を遂げている。コミック原作者をやっていたゆえに、エンターテイメント志向であり、漫画的な絵図を文章で表現しようとして、それだけでは不足な部分をタイポグラフィックに求めたのであろう。衒学的な蘊蓄おばけであり、詩文を多用するゼラズニイ、マルチプレックス言語なディレイニーと比肩する文体のスタイリッシュさはおもちゃ箱をひっくり返した様相を呈する。何より、今回は特殊翻訳者である渡辺佐智江氏のがんばりが凄い。あくまでベスターの文体の色気を大事にしながら、自然な日本語に置き換える作業に成功している。これからのベスター関連の訳書は是非、渡辺佐智江氏にしてもらいたい。SF肛門外漢といはずに是非に。